四方
この施設って療養施設ですよね。その白い壁にはどんな意図があるんですか?
戸恒
情緒障碍児の特徴として居たいと思う場所がそれぞれ違い、更にはこだわりがとっても強いらしいんだ。だからこちらから用意するような恣意的なものは徹底的に排除して、子ども達が自ら好きな場所をみつけて選べるように、色々な形の白い壁の空間を作ったそうだよ。
四方
そんな意図があったんですね!いろいろと勉強になります。
それで、その後にどんな照明プランを提案したんですか?とっても気になります。
戸恒
事務所に帰ってきてから、自分の中でどういう光が自然なのか、とにかく徹底的に考えた。例えば、全く壁に光があたっていないっていうのも、実は「意図的に」暗くしてるってことだからね。それはやはり恣意性が働いているってことで自然ではないんだよね。
四方
確かに!めちゃくちゃ難しいじゃないですか!
照明器具で照らさないことが影響して、この背の高い壁が暗いとなると、心地よい空間にはならない気がします。
戸恒
うん。だけど自然体を装って、適当に照明器具をつければ、壁にスカラップ(ダウンライトの光の形)がかかったりして、それはそれで見た目が悪くて美しくない。
ものすごくたくさんの白い壁があるんだけど、最後は自分の中で、3種類の壁を決めたんだ。明るい壁、普通の壁、暗めの壁ってね。それらを自然と奥へと誘い込むことが出来るように、奥の方に見える壁は明るめに、明るい壁の隣には、暗めの壁を意図的に作って、あとは順番にパズルをはめていくように解いていったんだよ。
戸恒
上の写真でいうと正面の壁が、明るい壁だね。左の壁も照明器具で軽く当てているんだよ。
右の壁には、照明器具はついてないけど、横からの跳ね返りで光を受けてるから、真っ暗ではない。それが普通の壁だね。
暗い壁っていうのは、この写真には写っていないけど、リバウンドした光すらも当てない壁。全体としてはそんなに多くはないかな。
写真だとわかりにくいかもしれないけど、それくらい微妙で繊細な違いを組み合わせていくのがこのプロジェクトの肝なんだよ。
戸恒
そうだね。先ずはその法則を自分で決めて、次にそれに合うようにスポットライトの光の当たり方が自然になるように調整していくんだ。白い壁がニュートラルに並んで見えるように、ひたすら繰り返し検討していったんだよ。
四方
ちなみにこの空間には壁しかないんですか?それ以外の特徴とかはないんですか?
戸恒
ない!全くない。本当に壁だけ(笑)。これが永遠と繰り返される感じ。だけど、そこに快適さとか、変化も必要なわけ。子どもにとっては色々な空間が必要だからね。
もちろん、たまにイベントをやる事もあるから、明るさをしっかりと取っている場所もあるよ。
(つづく)